後ろ髪を引かれる思いで、私は1000キロくらい離れている他の町に引っ越していった。


ムーにしつこく、”ちゃんとコレクトコールしてきて”と言っておいたので、二日に一度くらいちゃんと電話が入ってきていた。こちらから刑務所に電話をする事はできないので、ムーからの電話をひたすら待ちつづけなければなからなかった。


電話口でも、私はムーを怒鳴りつけるばかりだった。学校でも成績の抜群だった彼。みんなに好かれていた彼。どうして、いつからそんな風に変わってしまったの?どうしてそんな事に首をつっこんでしまったの?なによりも、どうして私に嘘をついたの。。。


刑務所に面会に行っていた時、ムーも泣いていた。人前で泣くなんて事しなかったのに、ぼろぼろになってないた。
”ただの欲だったんだよ”と彼は言った。
”ななを、心配させたくなかったんだよ”


ずっと考えていた。どうしてムーは、犯罪をおかしてしまったんだろう。物事の良し悪しを理解する、判断力がなくなってしまったのだろう。そして思い当たった。


ムーの故郷は、日本と違ってまだ発展途上国である。国外にいったんでると、また国に帰るのが難しい事をきいたことがある。そうでなくてもアフリカである。帰国するのに、余裕で二日はかかる。国内ではまだ内戦をおこしている場所もあるとか。そういう環境下の為、ムーは留学をしてからこの4年間、ただも一度も自分の国に帰ったことはなかったのだ。
その上、ムーの父親はちょくちょくこの国にきてムーにあっていたが、離婚していたムーの母親はそうもすることができず、また病気がちで、ムーはムーのお母さんと4年間も会っていなかったのである。


そんな中、私は少なくても1年に2回は帰国していた。いつも私が帰国するとき、”いってらっしゃい”と笑って送り出してくれるムーだった。そんな私が、きっと羨ましかっただろう。自分も帰りたい、母に会いたい。。。そう思ってもどうする事もできず、ムーの心は混乱していったのではないか。


そんな事は、私の前ではおくびにも出さなかったが、私は確信した。そして、申し訳なく思った。
私は、私は。。。彼の寂しい気持ちを、理解してあげる事ができなかった。結果的に彼がこんな風に心の病気になるまで、私は何もできなかった。。。


しかし、私はまだ若かった。自分のやりきれない思いを、彼に電話口で怒鳴ってぶるける事しかできなかった。ただ、それは、彼が出所してくるだろう、またきっと会える日が来るだろうと、心のどこかでずっと期待していたからだと思う。しかし、この国はそんなに甘くはなかった。


結果的に、1年かかった。ある日ムーの弁護士から、ムーは国外退去しなくてはいけない。そして、それはいつ起こるかわからない。ある日突然、国からの命令が出て、彼は連れ去られる。だから私は、最後の”さよなら”も言えない。また肌にふれる事もない。私は気が狂いそうになった。会えないってどういう事???彼はアフリカに帰る。そしたら、もう一生会えないかもしれないではないか。


新しい町で、ムーの事で精神的にまいっていた私は、つまらない男と恋に落ち、傷つけられ、私の心はますます傷だらけになり、もう男なんか信用できなくなっていた。他の男とそういう関係になれてしまうんだから、ムーの事はもう男として、自分は見ていないのかもしれない。でも、ムーの事は好きだった。犯罪者になっても、嘘をつかれても、ムーの人間性を、私は否定できなかった。彼は私を傷つける事は、一度もしなかったから。だから、彼にもう一度会いたかった。会いたかったけど、彼はある日突然この国から去った。
その後、2ヶ月くらいたって、ムーが電話してきた。突然で、びっくりした。が、ほっとした。彼は、故郷の土地で元気そうだった。お母さんにも会えて、彼の人間性を取り戻したみたいな声になっていた。彼は未だに ”I Love You"といって電話を切った。そして、私がアパートを引っ越さなければならなくなったとき、彼とのコミュニケーションは完全に途絶えてしまったのだ。
私は、結婚した今でも思っている。彼に会いたいと。いつか、どうにか彼にあって、元気な姿を見たいと思っている。その時にやっと、このもやもやした思いはすっきりするのではないかと。もう一度会いたいと思い、ずーっと待って会えなかったのだ。それは実際会わないと、きっと一生消えない思いだ。


彼は本当に、私にとって特別な人だ。好きとかきらいとか、そういう感情を通り越してしまっているような感じがする。あれから4年たっても、この想いは1ミリも変わらない。
夫にもいつかわかってほしい。そして、夫と一緒に、いつかムーの故郷を訪れて、お互いの家族を紹介しあったりして、互いの幸せを喜び合える瞬間が来ることを、私は心から望んでいる。夫もムーに実際会う事ができたら、きっとムーの事を好きになるに違いない。ムーはそういう人間なのである。


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Daisy様、
お気に入りにいれて頂いて有難うございます。めちゃくちゃな文章ですが、どうぞ宜しく!

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